『存在のすべてを』の感想・あらすじ|30年前の誘拐事件が描く「家族と存在」の物語

30年前の事件を追う物語なのに、なぜこんなにも心に残るのか

「面白いミステリーを読みたい」

そう思って手に取ったのに、読み終わったあとに残るのは、事件の謎だけではない。

そんな作品があります。

塩田武士さんの『存在のすべてを』は、30年前に起きた「二児同時誘拐事件」を軸に、新聞記者が過去の事件を再び追いかけていく長編小説です。

ただし、この作品の魅力は「犯人は誰なのか」という謎だけではありません。

人は誰かにとって、どんな存在なのか。

家族とは何なのか。

そして、事実を知ることと、真実を知ることは同じなのか。

読み進めるほどに、そんな問いが静かに浮かび上がってきます。

まずはAudibleで作品の雰囲気をチェックしてみたい方はこちら。

 

『存在のすべてを』の基本情報

タイトル:存在のすべてを

著者:塩田武士

出版社:朝日新聞出版

ジャンル:小説・ミステリー/人間ドラマ

単行本発売:2023年9月7日

Audible版:あり

ナレーター:蒼木智大

再生時間:18時間58分

Audible版:完全版

『存在のすべてを』は2024年本屋大賞で第3位に入り、第9回渡辺淳一文学賞も受賞した作品です。現在は2026年4月に文庫版も発売されています。

 

『存在のすべてを』のあらすじ

物語の始まりは、1991年に神奈川県で発生した二児同時誘拐事件です。

事件から30年が経った2021年。

当時、事件を担当していた新聞記者の門田次郎は、旧知の刑事・中澤洋一の死をきっかけに、過去の事件と再び向き合うことになります。

そこで門田が知ることになるのが、かつての被害男児の「現在」です。

その人物は現在、如月脩という名前で活動する人気の写実画家になっていました。

しかし、30年前の事件には、いまだに埋まっていない空白があります。

なぜ事件はそのような展開をたどったのか。

そして、その間に何があったのか。

門田は取材を重ねながら、事件に関わった人々の過去と現在を少しずつたどっていきます。

新聞記者、刑事、被害者、画家、そしてその周囲にいる人々。

それぞれの視点や人生が重なっていくことで、単純な事件の真相探しでは終わらない物語になっていきます。

もちろん、ここから先には物語の核心につながる部分があります。

だからこそ、「空白の時間に何があったのか」という疑問を残したまま読み進めるのがおすすめです。

 

『存在のすべてを』が面白い3つの理由

 

① ミステリーなのに、最後に残るのは「人」の物語

『存在のすべてを』は誘拐事件を扱ったミステリーです。

そのため、最初は「事件の真相を知りたい」という気持ちでページをめくることになります。

ところが読み進めるにつれて、物語の重心が少しずつ変わっていきます。

事件によって人生を変えられた人。

事件を追い続けた人。

そして、事件そのものを知らない時間を生きてきた人。

同じ出来事でも、立場が違えば見える景色はまったく違います。

「事件の真相」だけでなく「その事件を生きた人たち」に目を向ける作品だからこそ、読後の余韻が長く残ります。

 

② 「存在する」とはどういうことなのかを考えさせられる

タイトルにもある「存在」という言葉。

物語を追っていくと、この言葉が単なる作品タイトルではないことを感じさせられます。

人は、誰かに覚えられているから存在するのでしょうか。

名前や肩書きがあるから存在するのでしょうか。

それとも、誰かと過ごした時間や、その人の心に残ったものこそが「存在」なのでしょうか。

本作はこうした問いを大げさに説明するのではなく、登場人物たちの人生を通して静かに投げかけてきます。

ミステリーを楽しみながら、読み終えたあとに自分自身の考えまで少し振り返りたくなるところが魅力です。

 

③ 写実画という「目に見えるもの」が物語に深みを与えている

本作では、事件だけでなく写実画も重要なモチーフとして登場します。

写真のように現実を描く写実画。

しかし、人間が描く以上、そこには単純な「事実の再現」だけではないものが入り込みます。

何を見るのか。

何を描くのか。

そして、描かれたものを見る人は何を感じるのか。

事件を追う記者と、現実を描こうとする画家。

この2つの視点が交差することで、作品独特の世界観が生まれています。

 

登場人物が物語に厚みを与えている

 

門田次郎――過去の事件をもう一度追う新聞記者

物語の中心となる人物の一人が、大日新聞の記者・門田次郎です。

1991年の事件を新人記者として取材し、30年後、旧知の刑事・中澤の死をきっかけに再び事件と向き合います。

長い年月を経て、かつての事件を改めて追い直す。

その取材が、過去と現在をつなぐ重要な軸になっています。

 

中澤洋一――時効後も事件を追い続けた刑事

神奈川県警の刑事として1991年の事件に関わった中澤洋一。

事件が未解決のまま時効を迎えたあとも、彼は事件を追い続けていました。

そして彼の死が、門田が再び事件に向き合うきっかけになります。

 

如月脩――謎に包まれた人気の写実画家

現在、人気の写実画家として知られている如月脩。

しかし、彼の素性には謎が残されています。

そして、その過去には30年前の誘拐事件がつながっています。

「なぜ彼は過去について語らないのか」という疑問が、物語をさらに先へと進ませます。

 

『存在のすべてを』の感想・レビューで評価されているポイント

読者レビューを複数確認すると、特に目立つのが「ミステリーとして面白いだけではなく、人間ドラマとして深い」という評価です。

レビューでは、事件の謎を追う展開に加えて、家族や人間関係、登場人物たちの人生そのものに読み応えを感じたという声が見られます。

また、物語の伏線や構成について「先の展開が読みにくく面白い」と評価する感想もあります。

一方で、472ページの長編ということもあり、短時間でサクッと読み終えるタイプの作品ではありません。

だからこそ、じっくり物語に入り込みたい人には向いています。

読後感についても、単純な爽快感というより、長く心に残る余韻を評価する感想が目立ちます。

 

こんな人におすすめ

  • 📚 読み応えのある長編小説を探している人
  • 🔍 ミステリーだけでなく人間ドラマも楽しみたい人
  • 家族や人間関係について考えさせられる作品が好きな人
  • 伏線が張られた物語をじっくり楽しみたい人
  • 読後に余韻が残る小説を探している人
  • 塩田武士さんの『罪の声』が好きな人

 

『存在のすべてを』はAudibleでも楽しめる

『存在のすべてを』にはAudible版も用意されています。

ナレーターは蒼木智大さん。再生時間は18時間58分の完全版です。

長編なので、「読んでみたいけれど472ページは少しハードルが高い」と感じる人にとって、耳から物語に入れるAudibleは相性のよい選択肢です。

通勤中や移動中、家事をしながらなど、活字を開けない時間にも物語を進められます。

また、登場人物が多く、過去と現在が交差する作品だからこそ、声で物語を追うことで会話や場面の切り替わりに意識を向けやすくなるのもメリットです。

 

まとめ|謎を追いながら、人の「存在」について考えさせられる一冊

『存在のすべてを』は、30年前の誘拐事件をきっかけに、過去と現在、人と人との関係を描いていく長編小説です。

ミステリーとしての「続きが気になる面白さ」がありながら、読み進めるほどに家族、記憶、人生、存在について考えさせられます。

2024年本屋大賞第3位、第9回渡辺淳一文学賞受賞という評価も、この作品が単なる事件小説ではないことを物語っています。

そして、長編だからこそ、Audibleで少しずつ物語を進める楽しみ方もあります。

「面白いだけでは終わらない小説を聴いてみたい」なら、候補に入れてみてはいかがでしょうか。

ここまで読んで、『存在のすべてを』の物語が少しでも気になったなら、まずは音声で世界に入ってみてください。

 

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